診断をお伝えする理由
療育センターやクリニックを訪れるお母さんやお父さんは、発達障害であることを否定してもらいたい気持ちとともに、ある程度、診断を伝えられる覚悟をお持ちだと思います。
それでも、多くの方は、「診断名を伝えられた時のことは一生忘れない」、「診断名を伝えられた後のことは全く覚えていない」などとショックを受けられます。
そうしたことは、伝える側として、十分に認識しているつもりです。
それにも関わらず、「診断のお話をしても良いですか」と確認した上で、診断名をお伝えします。
その目的は、お母さん、お父さんに「腹を括ってもらうため」です。
自閉スペクトラム症や注意欠如多動症(ADHD)の子どもは、外見上、ほかの子どもと異なる特徴はありません。
加えて、ご両親は「自分の子どもが発達障害である」とは考えたくもありません。
それ故、診断がなければ、ご両親を始め、関わる大人が、自分自身やほかの子どもを基準として、「やればできるはず」、「努力が足りない」、「ふざけている」、「何度、言わせるのか」と注意したり、叱ったりすることが多くなります。
また、親の育て方の問題でもありません。
自閉スペクトラム症や注意欠如多動症(ADHD)の特性があり、そのために日常生活に困難が生じているのであれば、それらは生来の特徴であり、「やる気」や「努力」、「根性」では克服できません。
日常生活での困りごとを軽減するためには、適切な配慮や支援が不可欠です。
そうしたことを、ご両親を始め、関わる大人にしっかりと認識し理解していただくために、診断をお伝えしています。
そのため、「グレーゾーン」、「個性」や「性格」といった言葉は一切使いません。
これらの言葉を使用することにより、「真剣にやればできる」、「努力すればできる」と考えてしまいがちです。
「グレーゾーン」と言われても、お母さんやお父さんは判然とせず、腹など括れません。
「やる気」や「努力」、「根性」の問題ではないとの認識と理解がなければ、適切な配慮や支援に繋がりません。
子どもは、適切な配慮や支援を受けることができず、辛い日々を過ごすことを強いられます。
周囲から理解されず、適切な配慮や支援を受けられない発達障害のある子どもは、自信をなくしたり、ありのままの自分を受け入れられなくなったりします。そして、少し頑張ればできることであっても、「どうせやってもできないから」と取り組めないため、持って生まれた能力を十分に発揮できないことがあります。
また、大きくなれば、本人がほかの子どもとの違いを感じるようになります。
「みんなと同じ」であろうと懸命に努力を続け、大きな負荷がかかり続けることにより、不登校、強迫症、不安症、解離症、神経性やせ症など、いわゆる二次障害が発症すると考えられます。
診断はあくまでも出発点です。
困りごとに対する具体的な対応、適切な配慮や支援が伴わなければ、何の意味もありません。
例えば、「癌です」と早期に診断されたものの、治療方法が示されず、「見守りましょう」、「栄養のある食事をしてよく眠りましょう」、「ビタミン剤でも飲んでおきましょう」などと言われるだけであれば、早期に診断されても意味がないと感じます。むしろ、心配になるだけなら、診断してもらいたくなかったと思うのではないでしょうか。
自閉スペクトラム症や注意欠如多動症(ADHD)の診断も同じです。
「癌」と診断された場合、どのような治療方法があるのか、それぞれ、どの程度の治療効果があるのか、どのような副作用があるのかを尋ねるのではないでしょうか。
その上で、効果が一番高いと科学的に示されている(科学的根拠のある)治療を選ぶことが一般的ではないでしょうか。
個人的な経験、勘と思い込みによる非科学的な治療が第一選択となることはありません。
応用行動分析に基づき、具体的な対応、適切な配慮や支援の方法を考えるのは、こうした理由です。
お母さんやお父さんの困りごとが減り、また、持って生まれた能力を最大限に発揮し、お子さんらしく、笑顔で生きられるように発達を支援する出発点として、診断は必要なものと考えます。