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前を向くために

[2023.07.18]

自閉スペクトラム症や注意欠如多動症と診断を伝えられた後、帰り道、自宅の玄関を入った瞬間やソファーに腰掛けたとき、途轍もなく大きな不安が押し寄せてくる。


何ひとつ変わらない光景であるはずなのに現実感が感じられず、当たり前であったこれまでの普段の生活は二度と戻ることがないような深い絶望感に襲われる。子どもに託した夢や希望が崩れ落ちていく。


おばあちゃん、おじいちゃん、近所のおばさん、ママ友など、みんなが「気にしすぎ」、「成長には個人差があるから、そのうち追いつく」、「心配することはない」、「個性だよ」などと言ってくれていたのに。


「本当に発達障害なの?」、「何かの間違いではないの?」、「あの医者は本当に信用できるの?」などと否定したい気持ちで一杯になる。


そして、「なぜうちの子どもなの」、「私が何か悪いことをしたの」、「頑張って子育てしてきたのに」など、ぶつけようのない怒りもふつふつと湧いてくる。


いろいろな感情がごちゃ混ぜとなり、圧倒されて疲労困ぱいしてしまう。


しばらくして、ふと冷静になったとき、「この子のために、何ができるのか」、「なんとか普通に近付ける方法はないか」、「何かしなければいけない」などと考える。
しかし、何をどうすれば良いのかは全く分からない。


インターネットで調べてみても、いろいろな人がいろいろなことを言っている。いわゆる専門家の意見も異なる。
何が本当で、何を信じれば良いのか、途方に暮れてしまう。


診断を受けた後の感情はひとそれぞれかもしれませんが、大体このような感じだと思います。


慰めや優しい言葉以上に、前を向くためには、実際に、これまでできなかったことができるようになったり、かんしゃくやこだわりなどの困りごとが減っていったりするお子さんの変化が必要と考えています。
そうした前向きの変化が希望となります。


クリニックでは、診断を伝えるだけではなく、前を向き、着実に前進していただくために、応用行動分析に基づき、具体的な対応や方法をお話しします。そうではなくては、受診していただいた意味はないと考えています。そもそも発達障害は薬で治るものではありません。


「子どもの気持ちに寄り添う」、「子どもの言葉に耳を傾ける」、「見守りましょう」などと言われることが多いかもしれません。大切なことではあります。しかし、そうした抽象的なアドバイスだけで、お母さんの気持ちが前向きになったり、お子さんのできなかったことができるようになったり、かんしゃくやこだわりなどの困りごとが減ったりすることはあり得ません。高いレベルの科学的根拠もありません。


公園の水飲み場で、高く水が上がるのを見ることが好きな自閉スペクトラム症の幼稚園児がいました。
「子どもの気持ちに寄り添ってあげましょう」、「子どもの言葉に耳を傾けて尊重してあげましょう」、「見守りましょう」、「本人が嫌がることはやらせないようにしましょう」と療育関係者が言って後押ししました。
小学校の高学年になっても、あちらこちらで、やり続け、次第に近隣から苦情が寄せられるようになりました。
それでも、長年やってきたことを急に止めさせることは困難です。すでに体も大きくなっており、止めさせようとするとかんしゃくを起こして、手がつけられません。お母さんは困り果てていました。


また、ドライブが好きな自閉スペクトラム症の園児がいました。
機嫌が良くなり、落ち着くため、自分の思い通りにならずにかんしゃくを起こす度に、両親はドライブに連れていきました。
「子どもの気持ちに寄り添ってあげましょう」、「気持ちが落ち着くならドライブに連れて行ってあげれば」などと療育関係者も容認し、むしろ推奨していました。
成長とともに、自分の思い通りにいかないことが増え、夜遅くてもお構いなく、頻繁にドライブをせがむようになりました。
ドライブに連れて行かないと、かんしゃくを起こし、うちで暴れます。夜遅いと、近所に迷惑がかかります。連日、深夜に何時間もドライブに連れて行くため、両親ともに疲弊し、仕事を続けることができなくなりました。
また、成人し、入所施設を探すも、暴力や暴言が問題となり、入れてくれるところが見つかりません。
今や、その子の行動は「強度行動障害」と言われています。


「子どもの気持ちに寄り添う」、「子どもの言葉に耳を傾ける」、「見守りましょう」などは、大切ではありますが、具体性がなく、どうすれば良いのか戸惑うばかりではありませんか。
そして、お母さんの気持ちを前向きにさせたり、お子さんのできることを増やしたり、問題行動を減らしたりする効果は乏しいです。
結果に対し、そのようなアドバイスをした責任は誰もとってくれません。


縁起でもありませんが、もし、あなたが「癌」と早期に診断された場合、必ず、どのような治療方法があるのか、それぞれ、どの程度の治療効果があるのか、どのような副作用があるのかを尋ねるでしょう。
その上で、効果が一番高いと科学的に示されている(科学的根拠のある)治療を選ぶのではないでしょうか。
応用行動分析に基づき、具体的な対応、適切な配慮や支援の方法を考えるのは、同じ理由です。


魔法のように、一瞬にして、全ての問題が解決することはありません。
それでも、適切に対応すれば行動は必ず変わります。高いレベルの科学的根拠もあります。
一緒に、少しずつでも、着実に、前に進んでいきましょう。

 

                             

 

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