「体幹が弱い」や「不器用」について思うこと
最近、「体幹が弱い」や「不器用」が流行っているようだ。
発達障害のある子どものお母さんから「指摘された」と頻繁に言われる。
しかしながら、「体幹が弱い」や「不器用」と判断する適切で客観的な評価基準はあるのだろうか。
そもそも、適切な姿勢で座っていられない場合などに、「体幹が弱い」と指摘されるようだが、
その原因は筋肉などの運動器にあるのだろうか。
また、例えば、スキップができない子どもにそのやり方を教えることはできるが、
「不器用」自体を改善する方法はあるのだろうか。
療育センターで、園や学校などからの指摘を受け、作業療法(occupation therapy)を希望されるお母さんには、
「やらせたいのは、ご自分のためですか、お子さんのためですか」
と尋ねている。
「何か子どもにしてあげたい」というお母さんの気持ちはよく理解できる。
一方で、子どもが自分で苦手さを自覚していることは多く、苦手なことを練習させられる辛さも理解できる。
園から「線に沿ってハサミで紙を切ることが苦手、おうちでも練習させてください」と言われ、うちで練習させた結果、ハサミを使うこと自体を拒絶するようになった子どもを知っている。
「字が汚い」、「マスの中に字が収まらない」などと言われて、練習をさせられ続けた結果、鉛筆を持つことを嫌がり、黒板を映さない、漢字ドリルの宿題をやらないという子どもを知っている。
角を矯めて牛を殺すようなことは避けたい。
作業療法を希望されるお母さんには、
「日常生活に大きな影響がなければ、少し目をつぶってもいいのではないですか」、
「もしやらせるなら、楽しく、できた!という成功体験で必ず終わらせるようにしてください」
などとお伝えしている。
ちなみに、アメリカ小児科学会は、「感覚統合療法には科学的根拠がない」との声明(policy statement)1)を出している。
その中には下記の記載がある。
- 感覚統合療法の効果に依然科学的根拠がない。
- 感覚統合療法の効果を評価することは難しい。症状の程度や発現の仕方は様々であり、一貫した成果測定基準は存在していない。
- 有効性についての論文がいくつかあるが、科学的な厳密さが欠けており、効果測定基準はバラバラであり、科学的な有効性を示すには至っていない。
- 自閉スペクトラム児の問題行動や自傷行動の発生頻度について、感覚統合療法と行動療法(behavioral interventions)との比較をした論文では、明らかに行動療法が有効であり、最終的には(in the best treatment phase)、行動療法のみが行われ、さらに発生頻度の減少がみられた。
上記を踏まえ、医師に対して、下記の推奨(recommendations)を行っている。
- 発達や行動に問題をもつ子どもに対する、感覚に焦点を当てた療育(sensory-based therapies)については、限られたデータしか存在しないことを認識するとともに、家族に伝えなければならない。
- 療育者(therapist)が感覚に基づく療育を行っている場合、その療育が有効であるかを判断する方法を家族に教えるという重要な役割を担うべきである。
具体的には、
家族が療育効果を簡単に評価できる方法(例えば、行動の記録をつけたり、療育前後での行動を評価したりするなど)を考案するのを助ける。
療育開始時に、子どもの日常生活能力(例えば、どのくらい集中していられるか、どの程度食べ物が食べられるか、大きな音がする部屋にどれだけ居られるかなど)を向上させることに焦点を当て、明確な治療目標を作成する。
また、期間を決めた上で、設定した目標に向けてその療育が機能しているかを、家族と共に評価するべきである。
- 家族、医師やその他の専門家は、協力して、感覚の問題が子どもの日常生活に及ぼす影響を考え、療育の優先順位を決めるべきである。
少し前には、感情コントロールが難しい、動きが多く、衝動的な行動をする子どもに対して、「愛着障害」(アタッチメント形成不全)と考え、「愛情が足りていない」や「愛情を受けてきていない」と言われることが流行っていたように思う。
しかし、「愛着」(アタッチメント)と「愛情」は意味が異なる。別物である。
「愛着」と訳されている「アタッチメント」とは、不安や怖い、思い通りにできなくてイライラした感情などを元通りにしようとする欲求や行動のことである。2)。
アタッチメント形成が阻害される背景として、環境要因による親子の物理的関係の阻害(親の長期不在や子どもの長期入院など)、親子の心理的距離の拡大(親の自分を優先させるライフスタイルなど)や子どもの虐待が挙げられる。3)
必ずしも「愛情」の問題ではない。
流行には飛びつきたくなるが、いつも、
「科学的根拠はあるのか」と自問し、
「専門家としても見識が問われている」と自戒している。
参考文献
- American Pediatrics Academy, SECTION ON COMPLEMENTARY AND INTEGRATIVE MEDICINE and COUNCIL ON CHILDREN WITH DISABILITIES. “Sensory Integration Therapies for Children With Developmental and Behavioral Disorders.” Pediatrics. 2012;129;1186–1189.
Available at: https://publications.aap.org/pediatrics/article/129/6/1186/32067/Sensory-Integration-Therapies-for-Children-With?autologincheck=redirected - 遠藤利彦. 赤ちゃんの発達とアタッチメント : 乳児保育で大切にしたいこと. ひとなる書房, 2017.8
- 宮本信也. 愛着障害とは何か 親と子のこころのつながりから考える. 神奈川LD協会, 2020.1