子どもに接する時の考え方
1 まず目標ありき
目標は、
① その子どもらしく生きられること
② 子どもの持つ可能性を最大限に引き出すこと
① その子どもらしく生きられるためには、
両親、関わる大人など周囲のひとが、本人の特性を理解し、適切な配慮とサポートを行うことが必要。
結果として、強迫症、気分症、神経性やせ症などのいわゆる二次障害の発生を防ぐことにもなる。
② 子どもの持つ可能性を引き出すとは、次のように考える。
1) 不適切な行動を減らし、より望ましい行動に置き換えること
2) できることを増やすこと
目標を実現するために複数の課題を階層的に設定する必要がある。
課題は、具体的で、誰が見ても、達成できているか否かの判断が100%できるものが望ましい。
(参考1)
「健康で明るい」「すじみちをたてて考える」「すすんで行動し最後までやりぬく」「すなおで心の豊かな」などは、行動から判断している。
これらを具体的な行動に落とし込む必要がある。
(参考2)
障害を受容すること≠問題行動を許容する
能力的に遵守可能なルールを守らせること≠人権侵害
(参考3)
短絡的に障害のせいにして問題解決のためのアクションをとらない
→「個人攻撃の罠」、単なる差別
2 可能性の高いものから(方法、手段)
課題を達成するために手法や手段を選ぶ。
いろいろな手法や手段の中から、可能性の高いものから試み、必ず評価する。
可能性が高いものとは、科学的に効果が検証されている中で一番効果的であるもの。
まずは、応用行動分析(ABA)。
(参考1)
アメリカ「連邦」政府は、
The Autism Collaboration, Accountability, Research, Education and Support (CARES) Act of 2019により、
自閉症対策への連邦政府の年間支出を3億6,970万ドルに増額。
日本とは発達障害に対する研究費などの額が桁違い
→ABAが基本
(参考2)
例えば、アメリカ小児科学会は感覚統合療法について依然十分なエビデンスはない、推奨しないとしている。
結果が出ないことを続けても時間の無駄。必ず結果を評価し、やり方の修正や改善を行うことが必要。
3 応用行動分析(ABA)とは
(1)まずは行動の意味や目的を分析
応用行動分析は Applied Behavior Analysis を略し「ABA」と言われている。
すべての行動には(本人の自覚の有無とは関係なく)意味や理由がある。
行動の意味、目的や理由を、記録から客観的に分析して考え、推測すること(仮説を立てる)が最初の一歩。
(2)前後の状況から行動の機能を推測(ABC分析)
先入観や決めつけではなく、前後の状況から、行動の意味や目的を客観的に「推測」する。(仮説を立てる)
Antecedents(先行条件)
行動が起こる前の状況。「どんなときに」
⇒ Behavior(行動): ①欲求、②回避・逃避、③注目、④感覚刺激
⇒ Consequences (結果事象)
結果と対応。「その結果どうなったか」(周りの対応など)
(3)行動を増やしたり、減らしたりする
我が子であっても、子どもの行動を直接変えることはできない。
望ましい行動を増やす方法は、
「先行条件」又は/及び「結果事象」を変えるしかない。
1) Antecedents(先行条件)を操作する
→事前の状況や環境を変える(問題行動が起こりにくく、適切な行動が起こりやすいように)
2) Consequences (結果事象)を操作する
→結果や反応を変える
3) 同じ機能を持つ他の行動に置き換える
←適切な行動と不適切な行動に対する強化の仕方に差をつけるなど
4 望ましい行動を増やしたり、問題行動を減らしたりするための主な手法
(1)強化と弱化(罰)(強化>>弱化、できるだけ弱化を使わない)
→ PBS (Positive Behavior Support))
行動を増やす原理が「強化」、減らす原理が「弱化」。
強化にも弱化にも「正」と「負」がある。(組み合わせで4種類)
「正の強化」: 行動の直後に何か(強化子)が出現することで行動が増える。
例:ほめる、好きなものを与える等
「負の強化」: 行動の直後に何か(嫌悪刺激)が消失することで行動が増える。
例:嫌な音がなくなる、薬で熱が下がる等
「正の弱化」: 行動の直後に何か(嫌悪刺激)が出現することで行動が減る。
例:叱る、叩く、タイムアウト等
「負の弱化」: 行動の直後に何か(強化子)が消失することで行動が減る。
例:ゲームを取り上げる、小遣いを与えない等
これらは、
①瞬時に行い(何に対する強化/弱化であるかわかるように)、
②社会的に受容され、適切とされるものに変えていくことを目指す。
問題行動=いつも無視は間違い。
無視することで、問題行動(回避)を増やしていることも。
(2)補助(プロンプト)
正しい結果や反応ができるようにする補助。
身体的ガイダンス、モデル(見本)プロンプト、位置プロンプト、ジェスチャー(身振り)プロンプト、言語プロンプトなどの種類がある。
補助なしでできるようにしていくことが大切。
1) 補助は正しい結果や反応ができるための必要最小限に留める
(ただし、間違わせないように確実に補助する)
2) 一度に取り去らず、段階的に減らしていく
(同一種類の補助の程度、補助の種類)
3) できるようになってきたら補助するタイミングを遅らせていく
(3)スモールステップで
(”errorless”で、必ず「できた!」「やってよかった」で終わらせる)
1) 「難易度」の観点から。
子供の能力にあわせ、習得させたい課題などをクリアできるように小さなステップに分け、
簡単なものから難しいものに徐々に課題を移行させること。
2) 「行動の分解」の観点から。
行動を小さく分解し、分解した一つひとつの要素となる行動をできるようにすることにより、
全体の一連の行動ができるようにすること。
いずれの場合でも、
子どもに間違えさせるのことない課題レベルを設定すること(+補助する)が大切。
歩幅と同様、能力や得意不得意も子どもにより異なる。
ひとつのステップをクリアすることで、強化してもらえるし、達成感を味わったり、自信を持てたりする。
楽しく取り組める。
そして、「またやっても良い」と継続してもらえる。
(参考) 行動の小さな分解→歯磨きは約23ステップ
洗面台に立つ、コップを持つ、蛇口を開ける、コップに水を注ぐ、蛇口を閉める、コップを置く、歯ブラシをもつ、歯磨き粉をもつ、歯磨き粉のフタをあける、 歯磨き粉のチューブを押して、少し出す、歯磨き粉を歯ブラシにつける、歯磨き粉のフタをしめる、 歯ブラシをくわえる、歯ブラシを動かす、歯磨き粉を口から吐き出す、コップを持つ、口に水を含む、口をゆすぐ、水を吐き出す、歯ブラシを洗う、歯ブラシをしまう、歯磨き粉をしまう、コップをしまう など
(4)チェイニング(連鎖化)
習得させたい行動を課題分析して小さく要素に分解した後、要素を連続して行うことを教えること。
逆行性と順向性の2つがある。
難しい行動については逆行性で取り組むことにより、子どもは達成感を得られやすい。
逆行性チェイニングは最後のステップから教えていく方法。
例えば、ステップが5つある場合、1から4までは親がしてあげて、最後の5のステップだけを子どもにさせる。
このステップができるようになったら、1から3までは親が行い、残りの4と5を子どもにさせる。
このようにして子どもが一人でできる部分を後ろから前に増やしていくもの。
順向性チェイニングは、この逆に、最初のステップから教えていく方法。
(5)その他(重要なこと)
① 個別の指示は、「短く」、「重要な部分をはっきり」と「一貫したもの」を「1回」だけ。
すぐに補助してやらせる。
そうでなければ、指示の価値が下がり、何度も言われないとやらなくなる。
② 対応は一貫したものに。
そうでなければ、相手を見て行動するようになり、問題行動がなくなりにくい。
③ いつも楽しくやることを心がける。
同時に、必ず「できた!」、「やってよかった」で終わらせる。
④ 決め付けなどにより思考を停止せず、問題解決に向け、どうすれば良いかを考えることが、何よりも重要。
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