重症度はどうですか?
子どもから話しを聞き、行動を観察した後、お母さん、お父さんから生育歴、普段の様子、困っていることなどをお聞きしている。
その後、お母さん、お父さんに「発達障害かなと思われていますか」とお聞きすると、ほとんどの場合、「はい」か「いいえ」での返答はない。
大部分の方はいろいろと話された後、「子どもはこんなものかな」「あってもゲレーゾーンかな」と答えられる。
お父さんについてはほぼ100%の方が「子どもはこんなもの」「妻は気にし過ぎ」と答えられる。
いろいろと気になることはあったとしても、「自分の子どもに自閉スペクトラム症やADHDがあることを受け止めることは難しいもの」と思いながら話を聞いている。
また、発達障害には遺伝的な要因が大きいため、「子どもの頃は自分もこんな感じだったし、子どもはこんなもの」とお父さんやお母さんが考えられていることもある。
実際に、診断基準に沿って、診断の根拠を説明していると「その話を聞いていると自分も当てはまる」と言われる方が少なからずいる。
お父さんが楽観的な背景として、「他の子どもがどのくらいできているのか」を知らないということもあるように感じる。
ママ友など周りのひとから「個人差があるから」「気にすることはない」などと言われることも背景にあるかもしれない。
でも、あなたが逆の立場であればきっと同じように答えるだろう。
診断はレッテルを貼るために行う訳ではない。
本人の持って生まれた能力を最大限に発揮できるようにし、さらには、いわゆる「二次障害」も防ぐためである。
困りごとなどの背景を知ってもらう目的もある。
診断を伝えると、しばしば「重症度はどうなのですか」と聞かれる。
そうした場合、「重症度には、あまり意味がない」とお答えして、つけていない。
そもそも、「重症度」を判断する客観的な基準はない。メリットもない。目的もはっきりしない。
そのほかにも理由はいくつかある。
本人にとっての「重症度」と周りのひとの考える「重症度」とが異なることがある。
周りのひとが「軽度」と考えても、本人が「とても大変」「苦しい」と感じていた場合、本人の大変さや思いが尊重されるべきだと考えている。
以前、「高機能型自閉症」という診断があった。知的に遅れのない自閉症の子どもに対して付けられていた診断名である。周囲のひとから「高機能型」を都合良く解釈され、コニュニケーションや対人関係の苦手さが理解されず、本人が辛い思いをしたということがあった。
一方、周りのひとが「とても大変」「受け入れ難い」と考えても、本人が何とも思っておらず、全く自覚のないというパターンもある。
また、「軽度」、「中等度」や「重度」という言葉がひとり歩きする可能性がある。
ひとは聞きたい情報しか聞かず、自分の都合の良い解釈をする傾向にある。
例えば、新版K式や田中ビネーといった発達検査では、
IQやDQは精神年齢(MA)÷生活年齢(CA)×100で算出する。
精神年齢(MA)とは検査結果から算出された発達年齢である。
生活年齢(CA)は実年齢である。
発達検査や知能検査では、軽度は51~70、中等度は36~50、重度は20~35、最重度 20未満とされている。
これらは行政上の支援程度などを決めるための指標に使われている。
小学4年生は10歳であるが、IQ 50であれば5歳(=年中)、IQ 60であれば6歳(年長) 、IQ 70であれば7歳(小学1年生)の発達(知的)レベルということである。
「うちの子どもは知的な遅れが軽度だから、努力すれば授業についていけるはず」と言うひとがいるが、現実的ではないことが理解できるだろう。
本人のなかに、得意なことと苦手なことがあり、その差が大きい場合があるが、「みんなと一緒」を目指すと足を引っ張るのは苦手なことである。
IQやDQは参考になるが、それらで全てが分かる訳ではない。
数値で示される知的レベルであっても、重症度の判断はあくまで目安であり、本人の大変さや社会的な受け入れられやすさを示すものではない。
特性の強さは知的レベルとは別物である。数値で判断できるものではない。
それぞれの特性の強さは子どもによって異なる。同じ子どもは誰一人存在しない。
生活上の困難さは一律の基準で判断することはできない。その意義も乏しい。
価値観や能力、得意なことや好きなことに応じて、その子どもなりのベストを尽くせば良いと考えている。
インホールド・ニーバーの祈り1)を思い起こして欲しい。
主よ、
変えられないものを受け入れる心の静けさと
変えられるものを変える勇気と
その両者を見分ける英知を我に与え給え。
1) 聖パウロ女子修道会(女子パウロ会). “ラインホールド・ニーバーの祈り(短文)”. Laudate. https://www.pauline.or.jp/prayingtime/vari_rein_short.php
