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〜もし迷うなら〜 就学先選択の考え方

[2025.04.10]

入学時だけでなく、その後の長い学校生活を視野に入れた選択が必要となります。
それぞれの子どもの特性や状況によって最適な環境は異なります。
そのため、就学先の選択には、どの子どもにも当てはまる絶対的な正解はありません。

 

就学先には下記の選択肢があります。

- 普通学級

- 普通学級+通級教室による指導

- 支援学級(情緒障害学級)

- 支援学級(知的障害学級)

- 特別支援学校

 

普通学級か支援学級で迷われる場合、支援学級を選択することをお勧めします。
親の期待や希望も大切ですが、子ども自身が安心できる場所で、自信を持って学び、成長できることを優先してもらいたいと考えています。


就学に際しては、大きな環境変化による負荷がかかります。
毎日通う場所やクラスメートが変わるだけではなく、着席していなければならない時間、時間割に沿った自由度の低い授業進行、板書、宿題、登校準備など、園までの生活とは大きく変わります。


過度な負荷は実行機能(計画立案、注意維持、衝動制御など)の低下につながり、学習効率を著しく下げることが示されています¹⁾。
いきなり大きな負荷がかかることにより潰されてしまうことは避けたいものです。
成長に伴い、耐えられる範囲で、少しずつ、より多くの負荷がかかっていくことが望ましいと考えます。


支援学級では、少人数であるため、個別対応が可能であり、子どもの特性や知的レベルに合わせた授業を受け、無理のないペースで学ぶことができます。
また、支援学級に在籍している場合、普通学級の授業にも参加できます。そのため、苦手な科目は支援学級で、得意な科目は普通学級で学ぶことも可能です。
子どもの状況に応じて、普通学級での学習機会を徐々に増やしていけます。

一方、普通学級に在籍する場合には支援学級の利用はできません。


支援学級に在籍しながら普通学級の授業も受ける「選択的統合」アプローチは、複数の研究でその有効性が示されており、完全統合よりも柔軟な統合アプローチの方が学習面・社会面の両方で良好な結果をもたらす場合が多いことが明らかになっています²⁾。
このアプローチは、子どもの強みを生かしながら、弱みに対するサポートを提供できる点で優れています。


また、いつでも簡単に支援学級に転籍できるわけではないことも認識しておく必要があります。
通っている学校に支援学級がない場合には、転籍するために転校する必要が出てきます。


多くの保護者は「まずは普通学級、うまくいかなければ支援学級へ」と考えがちです。
気持ちは理解できますが、この考え方には注意が必要です。


まず、支援学級へ転籍する場合、「普通学級でうまくいかなかった」という挫折経験を子どもにさせることになります。
普通学級で授業に参加できない場合やただ座っているだけの場合、真の学びは得られず、つらい思いだけをして、不登校になるケースが少なくありません。
そうした子どもをたくさん見てみました。
子どもだけではなく、親も苦しむこととなります。


自分に合わない学習環境を長期間経験することは、子どもの自己肯定感や学習への動機づけに否定的な影響を与える可能性があると示されています³⁾。
継続的な失敗や挫折を経験することにより、努力しても無駄であり、学業での成功を得られることはない("learned helplessness")と考えるようになることが明らかになっています⁴⁾。


教育上の支援が必要な子どもが適切な支援なしで学ぶ場合、不登校のリスクが2〜3倍高まるという報告があります。
学校を回避する行動の背景には、自分の能力を超えた過剰な要求によるストレスや不安、失敗体験の蓄積が関与していることが示されています⁵⁾。


不適切な環境に置かれることで二次的な問題(不安障害、強迫神経症など、いわゆる「二次障害」)を発症するリスクが高まります⁶⁾。
適切な支援を早期に行うことにより、「二次障害」の予防効果が期待できるというエビデンスが蓄積されています。


就学先の選択基準は知能指数(IQ)だけではありません。
選択においては、知能指数(IQ)だけでなく、実行機能(計画立案、衝動抑制、ワーキングメモリなど)、社会的認知などの多面的評価の必要性が示されています⁷⁾。


脳の可塑性に関する研究では、発達期に適切な環境を与える重要性が強調されています。
過度なストレスは神経発達を阻害し、学習能力の発達に否定的な影響を与える可能性があります⁸⁾。


子どもに合った環境で、成功体験を積み、自信を育み、必要に応じて段階的に統合を進めていく柔軟なアプローチが、長期的な発達と学習の成功を支える可能性が高いことが科学的に示唆されています。


もちろん、支援学級にも問題や課題はあります。手放しに勧められるわけではありません。
それでも、科学的知見を総合すると、「迷ったら支援学級」には合理的根拠があると考えます。


「急がば回れ」ということわざがあります。
もし迷うなら「まずは支援学級、少しずつ普通学級へ」をお勧めします。


ただ、子どもにより最適解は異なります。
子どもにとって適切な環境は何か、どのような注意や配慮が必要か、どうすれば最も学べるかなど、一緒に考えていきましょう。

 

(参考文献)

  1. Ashburner, J., Ziviani, J., & Rodger, S. (2010). Surviving in the mainstream: Capacity of children with autism spectrum disorders to perform academically and regulate their emotions and behavior at school. Research in Autism Spectrum Disorders, 4(1), 18-27.
  2. Lindsay, G. (2007). Educational psychology and the effectiveness of inclusive education/mainstreaming. British Journal of Educational Psychology, 77(1), 1-24.
  3. Maag, J. W., & Reid, R. (2006). Depression among students with learning disabilities: Assessing the risk. Journal of Learning Disabilities, 39(1), 3-10.
  4. Seligman, M. E. P. (1972). Learned helplessness. Annual Review of Medicine, 23(1), 407-412.
  5. Kearney, C. A. (2008). School absenteeism and school refusal behavior in youth: A contemporary review. Clinical Psychology Review, 28(3), 451-471.
  6. Gillberg, C. (2010). The ESSENCE in child psychiatry: Early Symptomatic Syndromes Eliciting Neurodevelopmental Clinical Examinations. Research in Developmental Disabilities, 31(6), 1543-1551.
  7. Barkley, R. A. (2015). Executive functioning and self-regulation viewed as an extended phenotype: Implications of theory and evidence for ADHD. Psychological Bulletin, 121(1), 65-94.
  8. Blair, C., & Raver, C. C. (2016). Poverty, stress, and brain development: New directions for prevention and intervention. Academic Pediatrics, 16(3), S30-S36.

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